終活のあり方
少子化、核家族化が進む日本では、かつてのように自分亡きあとに子供が財産や遺品の処理をしてくれるという終わり方は、望めなくなりました。そんな中、『終活』という言葉が生まれ、生前に財産分与、葬儀やお墓の手配を済ませておく、という考えが浸透しました。現在では、『終活』という言葉に「残された時間をいかに生きるか」というライフスタイルの見つめ直しも含まれるようになってきています。自分らしいエンディングを迎えられるように、終活のために必要な知識をここで学んでおきましょう。年金、保険、介護、相続、お葬式、ご供養、各項目について、わかりやすく説明します。
終活とは(サンプル事例)
今年の春に25年間勤めた会社を定年退職したBさん。先に定年を迎えていたご主人とともに、ご夫妻の『終活』に着手することにしました。まずは2人でそれぞれエンディングノートを用意し、残された人生でやり残したこと、やるべきことを書き出しました。旅行したい場所、チャレンジしてみたいこと、久しく会っていない知人の名前などを挙げ、具体的にいつ行動するのか、という目標を定めました。そして、老後を迎えるにあたって必要なお金や健康の問題に関して、ひとつずつ整理していきました。
1 年金の正確な計算
Bさんご夫妻は、ご主人が年収700万、Bさんが年収400万の共働き家庭でした。現在、ご主人の年金は月額17万円、Bさんは11万円となる計算です。Bさん家族はお子さんが3人おり末っ子はまだ高校生、将来は留学する予定です。預金は十分にあり、年金だけでも暮らしていけると考えていたBさんご夫婦ですが、子供の将来を考えたときに年金だけで足りるのか、きちんと計算をしておくことにしました。
さっそく「ねんきんダイヤル」で正確な年金額を確認したところ、なんと、Bさんには年金が支払われないことが分かりました。1986年4月の年金制度改正以降に育児のため休職した年数を引いてしまうと、給付条件の25年に数ヶ月足りないのです。そこで、Bさんは退職後も国民年金に加入して、数ヶ月間、年金を支払うことにしました。退職しても70歳までは国民年金に任意加入できます。受給条件に足りない年数を、国民年金で補うことができるのです。
ねんきんダイヤル 0570-05-1165
【Point】
育児や病気などで長期休職をしていた場合、年金受給資格期間が足りなくなってしまう場合があります。曖昧な記憶で計算したり、法改正で条件が変わったことを知らずにカウントしてしまうと、足りていないこと自体に気づかないケースもあります。年金は自分がいなくなったあとも配偶者に支払われる老後の大事な収入源です。終活を機に、年金事務所に問い合わせて正確な記録を確認しておきましょう。
2 適正な保険
Bさんご夫妻は、自分たちが亡きあとも3人の子供に財産を残せるよう、2人で高額の死亡保険金が支払われる生命保険に加入しています。ところが、2年前に夫が定年退職したのに続いてBさんも定年を迎えた今、年金だけで高額な保険料を支払うことは、実質不可能となりました。そこで、保険の見直しをすることにしました。
現在の契約を確認すると、死亡保険金は高額でも、介護状態になった場合にほとんど保険料が支払われない内容であることが分かりました。現在、Bさんの3人の子供のうち2人は独立し、すでに親の手を離れています。そこで、死亡保険金で遺さなければならない最低限の金額は、第三子の留学および大学院卒業までを想定した学費+生活費、自分たちの葬儀+墓地の費用、そして遺品整理費用のみ、と割り切ることにしました。結果、死亡保険金を大幅に減らすことで、毎月の保険料を下げることにしたのです。
また、大きな病気をしたり介護状態になったときに子供たちに負担をかけないよう、通院、入院、手術、介護の保障が手厚い医療保険を新たに契約しました。死亡保険金を低額にしたため、2つの保険料を足しても以前支払っていた保険料を大幅に下回りました。年金でも十分に支払っていける保険料になり、Bさんご夫婦は一安心です。
ほけんの窓口 0120-605-804
【Point】
年齢によって必要な保険は変わります。収入が少ない時期、子供が幼い時期、第一線で働いている時期、定年を迎えた時、それぞれ適した保険は違うのです。人生で岐路に立ったときには、同時に保険も見直しましょう。
3 介護のシミュレーション
幸いなことに、現在Bさんご夫妻は介護が必要な状態ではありませんが、将来のために介護について計画を立てることにしました。まずは自治体の高齢者福祉課、介護保険課などに連絡をして、公的な介護支援について確認したり、近隣のサポート施設をリストアップしました。
その次に行ったのは、お互いの意思確認です。介護状態になったらどう介護してほしいか、自分で判断ができない状態になったときどう扱ってほしいか、延命治療はしたいかどうかなど、介護に関する自分の希望を書き留めました。次に、互いにその内容を確認し、それぞれの希望を叶えられる環境作りを目標としました。
Bさんの希望は、介護状態になってもなるべく自力でお風呂やトイレに入りたいということと、車いすで外に出たいということでした。そこで、2人で話し合い、お風呂とトイレ、玄関をバリアフリーにリフォームすることにしました。地元のリフォーム業者に相談したところ、予算内で可能なリフォームを提案してくれました。また、ご主人の希望は、万が一の場合は延命治療をしないということでした。Bさんとご主人は子供たちにその意思を伝え、承諾を得ました。また、重度の認知症など、自分で判断できなくなった場合に入りたいと思う施設を探し、入居費用の目処もつけました。
介護の計画を立て、できる範囲で準備を済ませたことで、介護をする/介護を受けることを恐れずに、安心感のある日々を過ごせるようになりました。
【Point】
どれだけ準備をしても介護は家族にとって大きな負担となりますし、介護される当事者にとっても辛い毎日となります。人間らしい介護生活を実現できるように、起りうることを想定した現実的な計画を立てておきましょう。
4 相続について
Bさんご夫妻が次に手がけた終活は、相続についてです。まずは、夫婦の総財産を確認をします。共働きだったBさんご夫妻は個々で口座を持っており、お互いどれくらいの預金があるのか把握していませんでした。そこで、財産に関するすべての書類を整理することにしました。銀行の通帳、年金手帳、自宅の権利書、株券などをお互いに見せ合い、資産額を合計。その上で、司法書士に相談をしました。
司法書士のアドバイスにより、3人の子供たちと相続について話し合うことになりました。Bさんが亡くなった場合、ご主人が亡くなった場合、それぞれの相続内容、相続税の金額などを説明します。そして分かったのは、不動産を子供だけで相続するケースが問題だということです。3人はいずれも故郷である家を残したいと希望していますが、3人とも代償金を支払うゆとりはありません。結果、万が一の場合は3人で相続した上で不動産を売却し、その代金を分けることに決めました。家族がお互いに経済状況を把握したことで、自分たちが旅立ったあとのことも心配する必要がなくなり、気持ちにゆとりが出ました。
【Point】
ひとりの相続分が3600万円を超える場合は相続税が発生するため、司法書士よりも税理士に相談する方が的確な場合もあります。また、家族間でもめてしまった場合は、弁護士への依頼をおすすめします。
5 葬儀、お墓の準備
年金や保険など老後のお金についての問題、介護や相続など子供との問題を整理したBさん夫妻は、終活の締めくくりとして葬儀やお墓について考えることにしました。介護のときと同様、まずはもしも自分が旅立ったとき、どのように供養してほしいかを書き出します。その項目を夫婦でお互い確認し、そのために必要な準備をすることにしました。
Bさんのご主人は、友人たちの演奏による音楽葬を希望しました。長年参加している音楽サークルの演奏で送り出してほしいと考えたのです。そこで、Bさんご夫妻は音楽葬のできる葬儀場を探し出し、いくつかの葬儀場を見学しにいきました。そして、予算と条件の合う会場に、生前予約を行いました。また、音楽仲間のオーケストラマスターに自分の希望を伝え、そのときに演奏してほしい曲の譜面も渡しました。
Bさんは、墓じまいをして夫婦の供養は納骨堂に改葬したいと考えていました。子供は3人とも女性で、上の2人はすでに他家へ嫁いでいます。末っ子も遠からず同じ道を歩み、Bさん家のお墓を継承する人はいなくなるのです。そこで、立地や雰囲気、価格などBさんの希望する条件に合う納骨堂を夫婦で探し出し、生前契約をしました。また、改葬の手続き方法を調べ、必要書類と手順をリスト化して、子供たちのために残しておくことにしました。
希望通りの葬儀とお墓の準備ができたBさんご夫妻は、次に旅行の準備を始めました。Bさんが退職してから初めての夫婦旅行です。理想的な老後を過ごす準備は整っているので、あとはイメージ通りに過ごす楽しみが残されています。Bさんご夫妻の、ゆとりのある毎日が始まりました。
【Point】
夫婦・家族間で葬儀やお墓に関して意見が異なる場合は、折衷案を模索してみましょう。たとえば、葬儀ならば家族の望む形で行ったあと、「お別れ会」という形で故人の遺志を汲んだイベントを行うのも手です。お墓であれば、分骨して家族の希望するお墓と、故人の希望するお墓とに分けて納骨することもできます。
遺品整理業者とのトラブル
終活では、自分がいなくなったあとの遺品の整理についても考えておきましょう。現在は遺品の整理から部屋の清掃まで請け負ってくれる業者が多数存在します。費用は1~2部屋程度、常識の範囲内の使用であれば数十万で済みます。家が広かったり、ゴミ屋敷のように処分品が多すぎる場合は、100万を超える場合もあります。
また、孤独死の増加に伴い、業者の乱立も起きています。最初に低い価格を提示して、あとからいろいろな理由をつけて価格をつり上げる業者と遺族の間でトラブルも起きています。依頼時にきちんと話し合いをして、納得できない場合はあいみつを取って他の業者も検討しましょう。